東京多摩支部創設15周年記念講演会が、総務委員会主催で3月20日(祝)10時から武蔵境の武蔵野スイングホール・スカイルームで開催された。会場一杯の92名の聴衆が小松氏の身振り手振り豊かな熱のこもった講演に聴き入った。小松氏は秋田県出身の登山家・写真家で、高校1年生の時、大平山に登頂し、町を見下ろす景色に感銘を受けて登山を始めた。ヒマラヤを夢見て東海大学登山部に進み、厳しい訓練の中で環境を切り拓く力を養った。
2006年、小松氏は日本人女性として初めてK2登頂を達成。死亡率26%の難関に挑み、体力と精神力を試された。登頂後、C3手前の高度8200メートル地点でビバークを決断。翌朝、朝陽の暖かさで体力を回復して下山を再開し、生還した。K2の経験を通じ、「道は自ら作るもの」「小さなステップが成功への鍵」「生きていることが全ての始まり」と学んだ。また、山岳地帯に暮らすポーター達との交流を通じ、真の豊かさについて考え始め、登山活動から写真家へと転身する契機となった。
2008年からシリアで砂漠に生きる家族を取材。2011年に内戦が勃発すると、難民となった彼らを内部から記録し、平和な家族の視点で内戦を発信。シリア難民の男性と結婚し、価値観の違いを越えて共生する道を学んだ。現在、東京で夫と二人の子どもと暮らし、子どもたちの名前には家族の歴史と平和への願いが込められている。
シリアの人々にとって、幸福とは物質的豊かさではなく、家族の絆や、穏やかに共に過ごす時間(ラーハ)を持つことだ。しかし、内戦により多くの家族が離散し、多くの難民が生まれ、平和は失われてしまった。戦争や内戦が日常を奪い、人々の希望を打ち砕いた。夫の兄は警察に連行されて消息不明となり、その事実は一家の心を重く沈ませた。こんな身近でもシリアの厳しい現実を目の当たりにした
2024年、アサド政権崩壊直後に家族でシリアを訪問。内戦で荒れ果てた光景に胸を痛めた。シリアは民主化か独裁かの岐路に立ち、不安定な状況が続く中、帰国を望む難民も多い。小松氏は「知り、考え続けること」の重要性を訴え、登山で学んだ「道は一つではなく、一歩ずつ進むことが大切」という教訓が今も支えとなっている。困難の中でも希望を持ち、異文化共存を大切にしながら、現地の現実を伝え続ける。
凜として笑顔を絶やさず、広い視野で真の豊かさを探求し、挑戦を続ける小松氏の講演は聴衆の心をつかんだ。素晴らしい講演会となった。